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 2018/12/1(No.282)

「ノーベル賞を取るのは、田舎育ちばかり」

猪熊 建夫

ノーベル賞の授賞式が、12月10日に開かれる。今年は、日本から本庶佑・京都大学高等研究院特別教授が参列し、医学生理学賞を受ける。

日本人のノーベル賞受賞は、本庶さんで累計26人を数える(うち2人が米国籍)。26人の出身大学を見ると、本庶さんを含め京都大卒が7人で、東京大卒は8人だ。ただし、8人のうち自然科学系の受賞者は5人だ。

「ノーベル賞はやっぱり京大」といわれるが、小生の関心はそこにはない。ノーベル賞受賞者の出身高校に注目しているのだ。


norbelprize.orgより

今回の本庶さんは、山口県立宇部高校の卒業だ。他の25人の出身高校を調べると、1987年に医学生理学賞を受賞した利根川進氏が都立日比谷高校卒だ。東京都内にある高校を卒業した受賞者は、利根川氏以外ゼロであることがわかった。  

東大卒の8人の受賞者の中で、都内の高校卒は皆無だ。利根川氏は日比谷卒だが、東大を避け京大医学部に進学している。8人すべて地方の高校出身者だ。

要するに、累計26人のノーベル賞受賞者のうち25人は地方の高校を卒業しているのだ。この場合の「地方」とは、都内以外の高校を意味し、神奈川県の高校は「地方」としてカウントしているが‥‥。

都内には、「名門」と言われる高校がたくさんある。難関大学に多数の合格者を出している6年制の中高一貫校などだ。累計26人の受賞者のうち、都内の高校出身者が最低でも3人とか5人はいてしかるべきだろう。いや、10人くらいいても、おかしくない。しかし、そうはなっていない。

偶然だろうか。26人中25人が地方高校出身という事実は、「たまたま」の現象なのだろうか。

都内の名門高校出身者はブランド大学に進学し、大企業ビジネスマン、官僚、研究者などが大量に育っている。いわゆる一流大学の教授で、都内の名門高校卒業生は、たくさんいる。しかしその連中は、ノーベル賞とは無縁なのだ。

乱暴に、結論を出してみよう。都内の高校卒業生は受験戦争の勝者にはなり易いが、大学生活は「したり顔」でおくり、未知の分野をブレークスルー(突破)しようという気概は乏しい。

本稿で取り上げた3名のノーベル賞受賞者 左から本庶佑氏 利根川進氏 大村智氏
(ウイキペディアより)

一方、地方の高校卒業生は、「伸びしろ」がある、といえる。受験戦争で痛めつけられていない分、大学に進学して素直に伸びる。もちろん、そうでない学生もたくさんいるが‥‥。

2015年にノーベル医学生理学賞を受賞した大村智氏(山梨県立韮崎高校 山梨大卒)は、「科学教育において、私が最も重要だと思うのは、小さい頃から自然に触れることです」(文藝春秋18年3月号)と強調している。同様のことは、本庶さんも述べている。

都内の高校卒業生は、自然に触れる機会は乏しい。6年制中高一貫校に入るため、小学校高学年から塾通いをしている。ブランド大学に入っても、「燃え尽きた学生」「冷めた学生」になりやすい。対して、地方の高校生は自然に触れる機会はいっぱいある。

ノーベル賞受賞者は田舎育ちばかり。その背景は、「自然に触れる」機会があるかどうかだーそう結論して差し支えないだろう。


私は、この6年ほど、全国各地の名門高校を訪問してきた。その数、300数十校。週刊エコノミスト誌で「名門高校の校風と人脈」という題で毎週、執筆・連載を続けてきた。18年8月に計300回をもって連載を修了した。

この連載に加筆して「名門高校100」というタイトルで単行本(河出書房新社)を上梓した。

一連の取材、執筆,補稿の過程で、私なりに発見したFACTは、以上に縷々説明したように、「東京の名門高校出身者は、ノーベル賞を取れない」ということだった。受験戦争のゆがみがここに表出している、と言えるだろう。

しかし、残念なことに地方の名門高校は年々、衰退している。若者人口が目に見えて減っているし、地方経済が委縮しているからだ。この調子では、やがて日本人のノーベル賞受賞者は出なくなってしまうのではないか。そう、危惧せざるをえないのだ。エンドマーク

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