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 2018/11/16(No.281)

「パリでの災難」

ーー スリと強盗にご用心 ーー

篠原 寿一

この夏久しぶりにフランス旅行を楽しんできた。会社に入りたての頃は海外、特にアメリカで仕事をしてみたいという気持ちが強かったが、たまたまの巡り合わせで若いころ前後2回、合わせて約1年フランスで汎用構造解析プログラムの開発プロジェクトチームに参加し、パリで暮らしたことがある。以来パリには何度も出張する機会があり、フランスには強い親近感がある。

海外に出てみると、子供のうちから外国に出て直接外国文化に触れることはとても大事だと思うようになり、長男が中学生、次男が小学生の時の夏休みにロンドンとパリに家族旅行したことがある。ロンドン市内の移動手段としては例の2階建てのバスが便利であり、パリ市内では断然地下鉄が便利だ。ロンドンでは何度もバスを利用しているうちに次男がバス路線に詳しくなり、どこに行くには何番のバスに乗ればよいかについて意見を言うほどになった。その言っていることが正しかったことから、子供の順応性の高さには驚いたものである。

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ルーブル美術館の庭園(チュイルリー公園)

その旅行の折、パリのルーブル美術館でスリにあった。モナリザの絵の前は大勢の人々が群がっていて、絵を近くで見るにはこの群れに入って行かなければならない。そこで人の群れにもまれながら最前列まで進み、子供たちに存分に絵を見せ、私も堪能して群れから離れた。その後も、あふれるばかりの絵画や彫刻を見て回った後2階のテラスにあるキャフェテリアに行って昼食をとることにした。食券を買おうと後ろのポケットに手をやると財布がない。その日の朝トラベラーズチェックから2千フラン(約4万円)を現金化して財布に入れ、ズボンの後ろのポケットに入れておいたのだがこれが無い。

つらつら思うに、あのモナリザの絵の前の人々の群れの中に入って前に進むことに熱中していた時は財布のことはすっかり忘れていたので、その時スラれたことはほぼ間違いない。この事件(!)は子供達には良い教訓になったと考えて、悔しさを紛らわせた。

パリではもう一度財布を盗られたことがある。10年ほど前の12月、大学時代の友人と二人で往復の航空券とホテルがパックになっていて、現地では自由行動という格安ツアー旅行に参加した時だった。お互いに自由行動をしてパリを満喫し、いよいよ明日は東京に帰るという最終日に事件は起こった。

ホテルの部屋の鍵はカード式だったのでフロントには寄らずエレベーターに乗ったところ、若い男が後から乗り込んできた。これが強盗だとは思いも寄らず、今日は寒かったねーなどと話しかけて、目的の階で降りた。男も私に続いて降り、私は右に、男は左に向かった。私が、部屋の鍵を開けようとした丁度その時、件の男がすっと私に寄ってきた。そして、警察手帳を見せながら、私は警察官だがちょっと聞きたいことがある、ついては部屋の中で話を聞きたいと言うのである。外はすでに薄暗くなっていて、多分友人ももう帰っているだろうと思って「警察官」を中に入れたが、友人は未だ戻っていなかった。その後この偽警察官によって財布とトラベラーズチェック、それにクレジットカードを強奪された。その顛末を書くと長くなるので今回は省略するが、クレジットカードを無効にする手続きを済ませるまでの30分ほどの間に強盗は50万円余の買い物をしていた。今となっては、強盗に襲われたとはいえ怪我もなく、使われた50万円余も保険で支払われたので実害がないのが幸いだった。ただ、強盗ともみあった際の筋肉の挫傷により、痛みが2週間ほど続いた。

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パリカレーモンサンミッシェルパリ までの行程図
カレーからパリまでの全走行距離は約1060km
ほぼ東京から福岡までの距離となった

そして、今度である。この度の旅は、妻との二人旅だったが、フランスはカレー市に住むフランス人夫妻の熱心な誘いによって重い腰を上げたものだった。最初の5日間をパリで自由に過ごし、後半4日間は、パリの約300キロ北にあるカレー市にフランスの誇る超特急TGVで移動して2泊、更に500キロほど南西部にあるモンサンミッシェル近くの村のホテルに2泊した。後半の4日間は夫妻の親切な案内で快適な旅を楽しむことができた(右図は、今回の旅のためにフランス人夫妻が作ってくれたもの。日本地図と同じ縮尺なので、距離感がよく分かった)。

さて、今回の事件は、パリに着いて3日目に起きた。地下鉄駅で集団スリに目を付けられ、手品のようにして財布を奪われた。
 その日は、エッフェル塔に上ったことがないという妻の要望に応えて午前中エッフェル塔に上ることにした。ホテルから地下鉄でトロカデロ駅まで行き、そこから歩いて塔のある公園まで行った。公園は今整備工事の真っ最中であり、周囲はフェンスに囲まれて入場口が少なく、しかも観光客で結構混んでいた。また、エレベーターで塔に上る人達も大勢いて、利用券を買って上るまでには1時間近くを要した。その日は良く晴れていたこともあって展望台からの眺望は素晴らしく、美しいパリの街並みを存分に味わうことができた。塔を降りて来た時はすでに午後1時をまわっており、売店で買ったサンドイッチで軽く昼食を済ませ、次の目的地のモンパルナス・タワーまで地下鉄で行くことにした。

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エッフェル塔に上る人々の行列

この駅は、地上駅で地下鉄の雰囲気はまるでない。電車が来て乗り込もうとしたところ、少し離れた所から2人の子供が駆け寄って来たと妻は言う。私はまったく気づかなかった。乗車すると可愛い10歳くらいの女の子が妻をドアに押し付け、妻はそれを払いのけようと肘で押し返したという。一方、私はというと、どんどん電車の中に押し込まれ妻とは離れ離れになってしまった。

そして、発車寸前何人かの若者が電車から飛び降りた。そのうちの一人はドアに挟まれてもがいていたが、近くにいた中年の男がドアをこじ開けて逃してやった。私は、混んだ電車ではよくある光景だと思ってぼんやり見ていたが、電車が発車するとドア付近にいてドアに挟まれた若者を逃した件の中年男が英語で、財布を取られましたよと私に言う。そのことを妻に伝えると自分のバックを点検して、アッ財布がないと言いだした。私も念のためたすき掛けにした2つのバッグを点検したところ、すべてのファスナーが開けられていた。ファスナーがすべて開けられたことに私はまったく気づかなかった。ただ、私は財布をズボンのポケットに入れていたので、私の財布は無事だった。

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エッフェル塔展望台からの眺望 
手前はセーヌ川。遠くにはサクレクール寺院も見える

この盗難事件は電車が到着してから発車するまでの、ほんの20秒前後の間に起った。私に、財布を取られましたよと教えてくれた男は、次の駅で下車して立ち去った。後で考えると、この男も一味の一人ではなかったかと思われる。実に見事な手口で、狙われたらまず難を逃れるのは難しいように思う。

後日カレー市のフランス人夫妻にこの話したところ、EUになってから東欧から多くの人々が西ヨーロッパに移り住むようになり、特にルーマニアやブルガリアから来た人々の一部が泥棒集団になり、観光客の多い地下鉄や名所旧跡、繁華街などで窃盗をはたらいているという。

尤もこの種の話はフランスに行く前から夫妻からもメールでしばしば注意されていたし、ガイドブックにもいろいろ書かれている。それでも引っかかるのは私が間抜けなせいもあるが、日本は外国に比べて大変治安がよく、また平和ボケと揶揄されるように日本人が危険に無自覚で、どっぷり平和につかって暮らしていることとも大いに関係があると思う。

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しのはらとしいち ディレクトフォース会員(53)
元日本アイ・ビー・エム

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