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一般社団法人 ディレクトフォース

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2020/09/01(No.324)

故瀬島龍三氏から学ぶ「戦略的思考」

 

牧野 義司

近藤 勝重

アクティブシニア、生涯現役の経済ジャーナリストを公言して現場を動き回る私は「戦略的思考」など、「戦略」の名がつく言葉に接すると、思わず「おっ、どんな戦略展開なのかな」と関心を持ってしまう。エッセイを書くページなのに、無粋だな、職業病?が抜けない人だな、と思われるかもしれない。

でも、これから申し上げる伊藤忠商事元会長の瀬島龍三氏(故人)の話はジャーナリスト感覚で言えば、とても「いい話」で、いまだに新鮮さを保つ話だ。DFのメンバーの方々は、かつて企業経営の現場におられた方が多いので、「戦略的思考」の意味合いをわかっていただける、と思う。ぜひご覧いただきたい。

瀬島氏は、山崎豊子氏の小説「不毛地帯」のモデルにもなった元大本営参謀の軍人で、戦略家と言われている。シベリア抑留生活時代の行動がいろいろ取りざたされる面もあるが、帰国後、伊藤忠商事から乞われて商社マンに転じ、繊維商社だった伊藤忠商事を一気に戦略性のある総合商社に押し上げた辣腕の人だ。

伊藤忠商事元会長の瀬島龍三氏 右は帝国陸軍参謀(大尉)時代(Wikipediaより)

私と瀬島氏の接点は、40年も前にさかのぼる。私が毎日新聞の経済部記者時代に商社をカバーしていた際、当時、伊藤忠商事の会長職にあった瀬島氏の言動に強い関心があり、何度も取材を申し入れた。しかし瀬島氏はメディア嫌いで、門前払いだった。それでも私は臆せず、アタックし続けたところ、10回目ぐらいで「発言はストレートには記事にしない」という前提で、やっと応じていただいた。

インタビューは予想どおり、とても刺激的だった。世界情勢を見る視点、戦略的に物事をとらえる発想力が他の企業リーダーに比べて群を抜いており、伊藤忠商事が瀬島氏に総合商社化を託した理由がよくわかった。

話が盛り上がってきた中で、瀬島氏から「キミは、ボクの情報源がどんなところにあると思うか」と、唐突な質問があった。とまどった私は「大本営参謀時代からの人脈ネットワーク、伊藤忠商事が持つ情報ネットワークなどからの情報でないか、と想像します」と答えたら、意外にも「全く違う。情報源はキミのすぐそばにある。それは新聞の10行程度のベタ記事だ。ファクト(事実)情報こそが重要だ」という。これには驚いた。

ここからが、本題の「戦略的思考」の話だ。瀬島氏がなぜ、新聞のベタ記事に情報源を求めるのだろうか、と不思議に思ったが、話をいろいろ聞いていくうちに納得できた。

ポイントはこうだ。新聞のベタ記事は、見る人によって価値のないミニ情報でしかないかもしれない。しかしさまざまな情勢の変化を注意深くウオッチしている人間にとっては、そのベタ記事のファクト情報こそが、実は重要な意味を持つ、という。

ベタ記事のいくつか(本文の内容とは関係ありません)

瀬島氏は当時、こうも述べた。新聞の1面トップ記事は、メディアによっては「スクープ記事だ」と大々的に書いているが、力みが先行して冷静な情勢判断分析に欠ける。あまり信用しない。それよりも、ベタ記事のファクト情報は、起きた事実をコンパクトに書いてあり、メディアの予断が入り込む余地がない。そこで、あとは情勢分析判断のためのツールである座標軸を積極活用し、ファクト情報がどういう意味を持つか分析判断することが勝負になる、というのだ。

私なりに、瀬島氏の戦略的思考の話を整理してみよう。瀬島氏によると、日ごろから自分自身で関心領域の問題を中心に座標軸をつくっておく、その座標軸というのは、タテ軸、ヨコ軸に米国問題、中国・アジア問題などの国際政治経済問題、日本国内経済問題などを設定し、自分なりの見通し判断をまず描いておく、そこへ、それら座標軸に変化を与える新聞のベタ記事が出てきたら、躊躇なく自分自身で座標軸に修正を加え、次の見通し判断材料にする。これが戦略的思考だ、という。

瀬島氏は当時、「商社マンは、新聞記者と同様、情報に敏感で、その情報価値をいち早くビジネスにつなげる。君ら新聞記者はニュースだと走る。大事なのは早耳情報にとどめず、その情報の底流や背景を探って情報価値を見極め、ビジネス行動に移すことが重要だ」と述べたのを記憶している。

確かに、私たちが見過ごしがちな新聞のベタ記事情報を、こうして座標軸をつくってモノを見る、という訓練をつけておけば、新たな戦略分析判断のきっかけになっていく。思わず「目からうろこだ」と思った。

それ以来、私は、ベタ記事と言えども丹念に見るようになった。そればかりでない。さまざまな問題に関して、座標軸をつくってタテ軸、ヨコ軸に何を設定すべきかを考えるようになり、関心度に広がりが出てきた。テーマによっては、その関係の本を読んだり、インターネットで情報検索して深掘りもするようになった。間違いなく瀬島氏のアドバイス効果は大きかった。

この話は、40年前のことだが、その鮮度は今でも全く落ちていない、と私は思っている。最近、ある企業の経営OBの方と話し合った際、この瀬島氏の戦略的思考を話題にしたら「世の中をかく乱させる FAKE NEWS を含め、あらゆる情報が流れる現代において、状況に流されず、底流をしっかりと抑えるには瀬島氏のような取り組みが重要なのだろうな」というのが、その経営OBの方の受け止め方だった。皆さんはいかがだろうか。エンドマーク

まきの よしじ(1324)DF100歳社会総合研究所
現・メディアオフィス「時代刺激人」 元・毎日新聞 ロイター通信

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